この病気が慢性中耳炎としては最も多いと思います。
急性中耳炎で鼓膜の内側に膿がたまり、これが鼓膜を破り外に出てくることがあります。通常は抗生剤などで感染が落ち着くと、自然に鼓膜に開いた穴は閉鎖します。
ただ感染を繰り返しているうちに、開いた穴が大きくなってしまうこともあります、その場合、自然に閉鎖する力がなく、穴がそのまま残ってしまいます。
あるいは鼓膜切開や、鼓膜チューブ挿入後にチューブを抜いた後が、穴のまま残ることもあります。
やがて、鼓膜の穴の縁の部分を表面の皮膚層が覆ってしまい、くっつきにくくなってしまいます。(傷というのは新鮮なものでないとうまくふさがりません)こうして鼓膜の穴が残ってしまいます。
こうして残った鼓膜の穿孔はどのように問題になるのでしょう。大きく分けると2つです。
1.聞こえが悪くなる
2mm以上の鼓膜の穴は張力を低下させるという説があります。音が耳の中に入ってきても、鼓膜を震わせることができないので当然音の伝わりは弱くなります。写真の患者さんは右の慢性中耳炎です。穴の大きさはかなり大きく、聴力検査でも神経のレベルでの聴力(骨導聴力といいます)は比較的保たれていますが、鼓膜を通した耳全体の聴力(気導聴力といいます)は左に比べて低下しています。年齢的に、高い方の音が両方共、聞こえにくくはなっておられます。ただこの右と左の差は鼓膜の穴によるものと考えられます。
2.感染の危険性が高くなる
鼓膜に穴が空いていれば、外から入ってきた水が鼓膜の奥に入ってしまいます。また鼓膜に穴が空いていると、お鼻を強く噛んだ時に鼻水が耳の方に抜けやすくなります(鼓膜の内側と耳の奥はつながっています)この結果、化膿性中耳炎を繰り返して起こしてしますことになりかねません。
感染を繰り返すと、次第に内耳へのダメージが進みます。その結果、後で鼓膜を塞ぐ手術を行っても、聴力が改善しないこともあります。
もし手術をしない場合は、耳に水が入らないように
1.水泳はできるだけ避ける
2.お風呂では洗髪時に、耳栓を使用したり、水を流すときに耳たぶを倒し耳の入り口を塞ぐ
3.水が入ったと思ったら綿棒で軽く耳の奥を押さえるようにして、耳の水を取り除く
4.普段から強く鼻をかまない
5.耳の調子がおかしくなったら、早めに耳鼻咽喉科を受診するのが大切です。
鼓膜の穴を外科的な治療でふさぐことが治療になります。
しかし、全ての方が手術が必要かというと、必ずしもそうとは限りません。穴の大きさが小さく、聞こえについてあまり問題がない方、泳ぐことをしない方等の場合は、手術をせず保存的に様子を見るというのも1つの考え方です。
しかし多くの方にとっては、感染を繰り返し、そのたびに不快感(鼓膜に穴が空いているので、内部に膿がたまることによる緊満性の痛みを感じることはありません。むしろ痒みや、悪臭、耳の中のじゅくじゅく感が多いかと思います)があります。
前述したように、繰り返す感染は、内耳の障害の原因になり、聴力の悪化をきたしますので、できれば穿孔の閉鎖が望ましいと思われます。
20年ほど前から耳内法による鼓膜形成術がよく行われるようになりました。耳たぶの後ろの付け根を2Cm ほど切開し、皮膚の下の結合組織や筋膜を採取し、それを鼓膜の下側に敷きこむ方法です。そのままだと鼓膜が外れてしまうので、周辺を血液から作った接着剤を使って固定します。考案された先生の名前から「湯浅法」とも呼ばれます。
この方法は大人であれば外来日帰り手術でできること、子供さんで全身麻酔をかける場合でも2-3日の入院でいいという利点があります。この方法は充分接着出来るだけの鼓膜の穴の縁が残っている、鼓膜の中心に開いたできるだけ小さい穴に適しています。
鼓膜穿孔の縁があまりない場合や、の大きさが大きい場合は、以前からの手術法であるサンドイッチ法という方法で行います。術後の安静が必要で、施設により様々ですが大体2週間程度入院が必要です。
どちらの方法も、手術の閉鎖率(うまくいく割合)は大体85-90%と言われます。一部は感染を起こしたりし閉鎖がうまくいかないことがあります。また鼓膜がふさがっても、聴力が以前のように戻るかは個人差があります。